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バレンジア女王伝 第2巻 スターン・ガンボーグ帝都書記官 著 第1巻では、バレンジア女王の生い立ちから、タイバー・セプティム1世閣下に背いた彼女の父がモロウウィンドを滅ぼしたところまでを紹介してた。皇帝の寛大なはからいにより、幼い彼女は死を免れ、ダークムーアの帝都貴族であるセヴン伯爵夫妻に育てられた。彼女は美しく信心深く成長し、養父母に対する深い感謝を持っていた。ところが、その信じる心をセヴン伯爵の屋敷の厩番をしていた孤児の不良少年に利用され、作り話で騙された彼女は16歳のときにその少年とともにダークムーアを飛び出したのだった。道中でたくさんの危険に襲われながら、彼らはモロウウィンドにほど近いスカイリムの町、リフトンに辿り着いた。 厩番の少年ストロウは、根っからの悪人ではなかった。彼はバレンジアのことを自分勝手にではあったが愛していて、彼女を自分のものにするには嘘をつく以外にないと思っていたのだ。もちろん、バレンジアは彼をただの友達としか見ていなかったが、ストロウ自身はいつか彼女の愛を得ることを信じ続けていた。小さな農場を買って彼女と家庭を持つことを夢見ていたが、彼の少ない稼ぎはその日の食料と宿にすべて消えてしまうのだった。 二人がリフトンに来てまもなく、セリスという名のカジートの悪党が、町の中心地にある帝都指揮官の家を押し入る計画をストロウにもちかけた。セリスが言うには、帝徒に敵対するある人物がその家のもつ情報に大金を払うというのだ。バレンジアはその計画を漏れ聞き、震えあがった。彼女はその場をそっと離れ、外へ飛び出した。帝都への忠誠と仲間への愛情の間で彼女の心は引き裂かれていたのだった。 最後には、帝都への忠誠を選び、彼女は帝都指揮官の家へ行き、彼女の素性を明かした上で友人の計画を伝えたのであった。指揮官は彼女の話に耳を傾け、その勇気を称え、彼女には決して危害が及ばないことを約束した。だが、なんとその人物こそが、あの指揮官シムマチャスであった。彼はバレンジアを探し続け、ある情報を聞きつけてやっとの思いでリフトンに辿り着いたばかりであった。彼はバレンジアを保護し、真実を告げた。売り飛ばされるどころか、18の誕生日に再びモーンホールドの女王になることを知るのであった。その日が来るまで、バレンジアは政治を学び、皇帝に拝謁を賜るために新しい帝都でセプティム家とともに過ごすこととなった。 そして、帝都に迎えられたバレンジアと治世の半ばにあったタイバー・セプティム皇帝は親交を暖めた。タイバーの子供たち、特に長男ペラギウスは彼女を姉のように慕った。吟遊詩人たちは彼女の美しさ、清純さ、知恵、そして教養を称え歌い上げた。 18歳になった日、帝都中の人々が街道に出て故郷へ戻る彼女の送別パレードを見守った。誰もが彼女との別れを惜しんだが、モーンホールド女王としての輝かしい運命がバレンジアを待ち構えていることを皆は知っていた。 歴史・伝記 茶4
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現代の異端者:帝都内のデイドラ信仰の研究 ゴトルフォントのハデラス 著 シロディール内ではデイドラ信仰は法で禁じられてはいない。これは主に、デイドラの召喚を許可するために帝都が魔術師ギルドに大して認めた特権の結果といえる。にもかかわらず、聖職者および一般大衆からのデイドラ信仰への風当たりが非常に強いため、デイドラ関連の儀式を行う者たちは秘密裏に活動している。 一方で、諸地方に目を向けてみるとデイドラ信仰に対する見方は様々である。シロディール内でも年月と共に伝統的な世論に少なからぬ変化が見られ、デイドラを信仰する集落も存在している。伝統的なデイドラ信仰を志す者には信仰心や個人的な信念を動機とする者がいるのに比べ、現代的なデイドラ信者の多くは魔法的な力を目当てにしている傾向がある。とりわけ冒険家と呼ばれる人種は、伝説に名高いデイドラの秘宝の武器としての、もしくは魔法的な利点を追い求める傾向にある。 筆者自身も、暁と宵の女王であるアズラを信仰する一団と遭遇している。デイドラ信仰に興味をもつ研究者は複数の方法で調査を進めることができる。既存の文献の研究、古代のデイドラの祠の探索および発見、各地の情報通からの聞き取り、そして信者そのものからの聞き取りなどが挙げられる。筆者自身はアズラの祠を発見する際にこれらの手段を 全て用いている。 筆者は最初に文献を紐解くことにしている。本書のような解説書からデイドラの祠に関する一般的な事情などを知ることができる。筆者が自身の研究によりシロディール内のデイドラの祠について理解している事項を例示すると、一般的に、デイドラの王の像が祠の象徴となっており、祠の位置は集落などから離れた野外にあり、各々の祠には信者の一団がついており、祠ごとにデイドラの王への嘆願などを行うべき特定の時間(週の間のある日であることが多い)が決まっており、デイドラの王は嘆願者が十分な力を有しているか、相応の人物でない限り嘆願に応じないことが多く、また返答を得るには適切な供物を捧げる必要があり(捧げるべき供物については信者の一団のみが知る秘密となっていることが多い)、そしてデイドラの王は何らかの仕事や使命を達成した冒険家にはしばしば魔力をもった秘宝を授けることがわかっている。 筆者は次の段階として、周辺地域の地理に精通している地元住民に聞き取りを行う。とりわけ得るものが多い聞き取り対象は二つあり、一つめは(移動中に祠を発見する可能性のある)旅の狩人や冒険家であり、二つめは魔術師ギルドの学者たちである。アズラの祠については、どちらの対象も有益な情報源となってくれた。旅路の途中で奇妙ながらに雄大な彫像を見かけたというシェイディンハルの狩人によると、像は両腕を伸ばした女性の姿をしており、片方の手には星を、他方の手には三日月を持っていたとのことだった。祟りを恐れて像を避けたものの、その位置は記憶しており、シェイディンハルの遥か北方、アリアス湖の北西、ジェラール山地の奥深くという情報が聞き出せた。像の外観に関する情報が得られたので地元の魔術師ギルドを訪ねてみると、その外見を元に信仰の対象となっているデイドラの王の正体が特定できたのであった。 祠の位置が判明したので現地に足を運んでみると、祠の周囲に信者の一団が住みついていることがわかった、デイドラ信仰に対する風当たりの強さゆえ、信者たちは当初こそ自分たちの素性を認めたがらなかったものの、筆者が彼らの信頼を得た後にはアズラが嘆願に耳を貸す時間帯(夕暮れから夜明けまで)に関する秘密や、捧げるべき供物がウィル・オ・ウィスプから得られる「発光する塵」であることを教えてもらえた。 筆者は一介の聖職者兼学者であるため、ウィル・オ・ウィスプを発見して発光する塵を入手することはかなわなかったうえ、供物として捧げられたとしてもアズラが耳を貸してくださったかどうかは定かではない。しかし、仮に供物を捧げてアズラがそれを認めてくださった場合、筆者は何らかの使命を与えられ、それを達成できた暁には伝説的な魔力を秘めたデイドラの秘宝「アズラの星」を授かることができた可能性があったのは確かである。 筆者はその後、シロディール内に上記以外にも複数のデイドラの祠が存在すること、およびそれぞれの守護神であるデイドラの王の名、そして冒険家たちが授かりうるデイドラの秘宝に関する噂を耳にしている。狩人のハーシーンは強力な魔力を帯びた鎧である「聖者の生皮」の伝説と結びついている。魔剣「ヴォレンドラング」は妖魔の王マラキャスと関連があるらしく、守護神の名をそのまま冠した「モラグ・バルのメイス」もデイドラ信仰の対象となっているようである。シロディール内にあるこれら以外のデイドラの王の祠および信者たちについては、たゆまぬ努力を続ける探求者たちによって明らかにされていくことだろう。 デイドラの神像関連 メインクエスト関連 神話・宗教 紫1
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アルテウムについて トールス・イル=アンセルマ 著 アルテウム島はサマーセット群島の中で三番目に大きな島であり、モリデュノンのポタンサ村の南方、そして本土のルンシバエ村の西方に位置している。この島はタムリエル最古の修道会と言われているサイジック会の本拠地として名を知られている。 サイジック会に言及した最古の記録は第一紀の20年目のものであり、有名なブレトン人の賢人にして作家、ヴァーネットがサイジックの司祭長であったヤキーシスに会いにアルテウム島まで旅をする様子が記されている。 サイジックたちは当時から既に、諸国王の相談役を務めたり、タムリエルで最初に栄えた一族から伝授されたという「古き法」を提唱していた。この古き法とは自然の力を個人の意志に結びつけるための瞑想と研究に関する学問であり、その根源はマジカとは異なるものの、得られる結果は大方似ている。 とは言うものの、アルテウム島が第二紀の初頭、ちょうどタムリエルで魔術師ギルドが創設されたあたりの時期にサマーセット群島から忽然と消え失せてしまったのは、単なる偶然ではないのかもしれない。様々な歴史家や学者がこの件に関する学説を発表しているが、真相を知っているのはヤキーシスとその一族だけではないだろうか。 500年の月日を経て、アルテウム島は再び姿を現した。その時点で島内に住んでいる人々は大半がエルフであり、第二紀に行方をくらまし、死んだものと思われていた面々であった。彼らはアルテウム島が長年の間どこにいっていたのか、および、ヤキーシスと当初のアルテウム議会がどうなったのかについては答えを知らないか、説明を拒んでいる様子であった。 現在のサイジックたちの指導者は、ここ250年間アルテウム議会の長を務めてきた教義長のセララスである。タムリエルの施政に対する同議会の影響力には波がみられる。サマーセット群島の諸国王、特にモリデュノンの王たちはしばしばサイジックたちに助言を求めている。皇帝ユリエル五世はその御世の初頭の頃、すなわち悲惨な結果に終わったアカヴィルへの侵攻以前の最も栄えある時代にアルテウム議会の影響を強く受けていた。ピアンドニアのオルグム王の船団を全滅させたのも、アンティオカス帝とサイジック会による共闘の結果だったとする説もある。ここ四代の皇帝、すなわちユリエル六世、モリハーサ、ペラギウスおよびユリエル七世はサイジックたちを信用せず、アルテウム島からの特使に帝都内への立ち入りを禁じている。 アルテウム島は地理的な図示が困難で、無作為に、もしくは議会の決定に従って、常に位置を変え続けているとさえ言われている。島への訪問者は非常に珍しく、ほぼ皆無に等しい。どうしてもサイジックに会いたいと願う者はポタンサ、ルンシバエの両村、もしくはサマーセット群島の諸王国にいる窓口役を当たるのが一手である。 敷居さえもっと低ければ、アルテウム島は旅行者にとって人気の目的地となるはずである。私は一度だけ同島を訪れたことがあるが、その牧歌的な果樹園や美しい牧草地、静かで穏やかな礁湖の数々、霧がかった森林地帯、そして周囲の環境に劣らぬくらい自然のものに見え、またそれ自体も素晴らしき美しさを誇るサイジックの建築様式などを、今でも時々夢に見るのである。とりわけセポラの塔は研究対象として興味深く、ハイエルフたちよりも何百年か以前に存在した文明の遺産であり、今でもサイジックたちの特定の儀式に用いられている。いつの日か再び訪れる機会があればと思う。 [注:筆者は現在、アルテウム議会のサルジェニアス殿の御厚意により、アルテウム島に滞在している。] 歴史・伝記 赤3
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ザレクの身代金 ドゥーマー太古の物語 第1部 マロバー・サル 著 ジャレミルは彼女の庭園に立ち、召使いが持ってきた手紙を読んだ。手にしていたバラの束が地に落ちた。一瞬、鳥のさえずりが消え、雲が空を覆った。丁寧に育て、作り上げてきた安息の地が暗闇に包まれた。 「息子は預かった」手紙にはそう書かれていた。「近いうちに身代金の要求をする」 やはりザレクは、アッガンに辿り着けなかったんだわ。道中の強盗、多分オークか憎たらしいダンマーに、上品な乗り物を見られて人質にとられたんだわ―― ジャレミルは柱にもたれ掛かり、息子に怪我がないかを案じた。彼はただの学生で、装備の整った男たちと戦えるような子ではないけど、殴られたりしていないかしら―― 母親の心には、想像するに耐え難いことであった。 「もう身代金を要求する手紙が来たなんて言わないでよね」聞き覚えのある声と見慣れた顔が垣根の隙間から見えた。ザレクであった。ジャレミルは涙を流しながら、急いで少年を抱きしめに行った。 「何が起こったの?」彼女は声を上げた。「誘拐されたんじゃなかったの?」 「されたよ」と、ザレクは行った。「フリムヴォーン峠で、もの凄く大きなノルド3人が、僕の乗り物を襲ったんだ。マサイス、ユリン、コーグ、この3人は兄弟だって分かったの。母さんにも見せてあげたかったな、本当に。もし正面玄関をくぐろうとしたら苦労すると思うよ」 「何が起こったの?」と、ジャレミルは再度問いかけた。「助けられたの?」 「助けを待とうとも考えたんだけど、身代金要求の手紙を送るって分かっていたし、母さんが心配性なのも分かっているから。だから、アッガンの先生がよく言っていた言葉を思い出したんだ、落ち着いて、周りを良く見て、敵の弱点を探る」ザレクはにっこりと笑った。「彼らは本当に怪物だったから、すこし時間が掛かっちゃったけどね。それで、彼らがお互いに自慢しあっている話を聞いたとき、彼らの弱点は虚栄心だって分かったの」 「それで何をしたの?」 「カエルに近い、幅広い川を見下ろす小高い丘の森のキャンプで鎖につながれていたの。コーグが、あの川を泳いで往復するには1時間近く掛かるだろうって、他の二人に話しているのを聞いたんだ。二人とも同感でうなずいていた、そのとき話しかけたんだ」 「僕なら30分で戻ってこられるね」そう僕は言ってやった。 「無理だ」と、コーグが言い放った。「おまえみたいな子犬より、俺のほうが早く泳げる」 「そこで、2人とも崖から飛び降りて、真ん中の島まで泳いで帰ってくるって決めたんだ。お互いの岩まで行ったとき、コーグが義務付けられているみたいに水泳のコツを僕に説教し始めたんだ。最大の速度のための、連動した腕と足の動きの重要性。息継ぎは、頻繁すぎて遅くならず、少なすぎて息切れしないように、必ず3、4回水を掻いたあとにすることがどれだけ肝心か。彼が言うコツに同意して、うなずいたんだ。それでお互いに崖から飛び込んだの。1時間ちょっと掛けて島まで泳いで帰ってきたけど、コーグは戻ってこなかった。彼は崖の下にある岩で頭をかち割っていたんだ。水の動きで水面下の岩が分かったから、飛び込むのに右の岩を選んだの」 「それで戻っちゃったの?」と、驚いたジャレミルは聞いた。「そのときに逃げたんじゃないの?」 「そのとき、逃げるのは危険すぎたよ」と、ザレクが言った。「彼らは僕を簡単に捕まえられただろうし、コーグが消えた責任も負わされたくなかったしね。彼に何が起きたか分からないと言ってから、ちょっと捜した後で、彼らはコーグが競争のことを忘れて、向こう岸で食料でも狩っているのだろうって思ってくれたの。僕が泳いでいたのは見えていたし、彼の失そうに関係があるとは思えなかったんだろうね。兄弟は僕が逃げられないように理想的な場所を選んで、岩の多い、崖のふちに沿ったところにキャンプを張り出したんだ」 「兄弟の一人、マサイスが、下の入り江の周りを巡る土の質と、岩の緩やかな傾斜について意見を言い始めたんだ。競争に理想的だ、そう彼は言った。僕がその競技について何も知らないことを伝えると、彼は競争に適した技術の一部始終を教えたがったんだ。変な顔を作って、どれだけ鼻から息を吸って口から出すことが必要かとか、どのように膝を適切な角度まで持ち上げるかや、足運びの重要性などをね。一番重要なのは、勝つつもりなら走者は積極的な、でも疲れすぎない速度を保つべきだと言った。二番手を走ってもいい、もし最後に追い抜く意志と体力があるならって言ったんだ」 「僕は熱心に聞き入ったよ、そしてマサイスは、夜になる前に入り江のふちの周りで簡単な競争をすると決めたんだ。ユリンは僕たちに、戻るときに薪を持ってこいと言った。僕たちは細道を過ぎたらすぐに、崖のふちに沿って走り始めたの。息や足取りや足運びは彼の忠告通りにしたけど、最初から全速力で走った。彼の足のほうが長いにもかかわらず、最初の角を曲がったとき、僕は彼の数歩前を走っていたんだ」 「彼の目は僕の背中に置かれていて、マサイスは僕が飛び越えた崖の割れ目が見えなかったんだ。叫ぶ間もなく下に落ちて行ったよ。キャンプに居るユリンのところへ戻る前に、数分かけて何本か小枝を拾ってから戻ったんだ」 「まったく、調子に乗って」と、しかめ面をしたジャレミルが言った。「間違いなく、その時に逃げればよかったのに」 「そう思うかもしれないけど」と、ザレクは同意しながら言った。「でもね、あの地形を見れば分かるよ―― 大きな木が何本かあって、他は低い木ばかりだったんだ。ユリンは僕が居ないことに気付いただろうね。すぐに追いつかれたら、マサイスが居ないことを説明するのがとても難しかったと思う。だけどね、手短に周辺を見て回れたおかげで何本かの木をじかに見られたから、最後の計画を立てられたんだ」 「僕は何本かの小枝を持ってキャンプに戻り、マサイスは大きな倒木を引っ張っているから、戻るのに時間がかかっているとユリンに言ったんだ。そうしたらユリンはマサイスの腕力をあざ笑って、彼では生きている木を引き抜いて燃やすには時間がかかると言ったんだ。僕は言ってやったんだ、そんなことはできないでしょうと」 「『見せてやるよ』と彼は言い、10フィートもの木を楽々と引き抜いたんだ」 「『でも、それはただの苗木だ』と僕が意見したんだ。『大木を引っこ抜けると思ってたのに』」彼の目は、僕の視線を追い、その先にある素晴らしい大木を見た。ユリンはその大木をつかんで、凄まじい力で根から土を離そうとゆすり始めたんだ。それで、木の一番上の枝から垂れ下がっていた蜂の巣が緩んで、彼の頭の上に落ちたんだ。 「母さん、僕はその時逃げたんだ」ザレクは少年らしい誇らしさで締めくくった。「マサイスとコーグは崖の下、そしてユリンは蜂の大群に飲み込まれて必死になっているときにね」 ジャレミルはもう一度息子を抱きしめた。 出版社注: 私は「マロバー・サル」の作品を出版する事に気が進まなかったが、グウィリム大学出版局がこの版の編集を依頼してきた時、この機会にきっぱりと事実を明確にしようと決めた。 学者たちはマロバー・サルの作品の正確な年代に関して同意していないが、それらの作品は、初代シロディール帝都の崩壊とタイバー・セプティムが台頭するまでの空白期間に、一般的な喜劇や恋愛物語で有名な劇作家「ゴア・フェリム」によって書かれたものであるという説に大多数が同意している。現在の説が支えるのは、フェリムは本物のドゥーマーの物語をいくつか聞き、金儲けのためにそれらを舞台に適応したり、自分の劇を書き換えたりしたという点だ。 ゴア・フェリムは自分の作品に妥当性を持たせるために、まただまされやすい人々にとってさらに貴重であるよう、ドゥーマーの言語を翻訳できる「マロバー・サル」の人物像を作り上げた。注目すべきは、「マロバー・サル」と彼の作品が激しい論争の題材になったが、実際に誰かが「マロバー・サル」に会った信頼性のある記録もなければ、同名の人物が魔術師ギルドやジュリアノス、または他の知的団体に所属していた記録もない。 どうであれ、「マロバー・サル」の物語の中でドゥーマーは、ダンマーやノルドやレッドガードさえも服従させ、現在でさえも解明されていない遺跡を作った、恐ろしくて計り知れない種族に類似点を持っている。 小説・物語 茶4
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フェンロイの戯れ言 [次の作品は著者が自らの手で若すぎる死を遂げる直前にその部屋から集められたものである。インク代わりに自分の体液だけで主にベッドのシーツや床の石に直接書かれていて、転写したものの中には著者の真意を編集者が最大限推測して書かれたものもある。] 母は理由はないと言った そういうものなんだと 母は嘘をついている 私には雨が見えるし、雨を感じることができる 私には風を感じることだけができる 誰かが隠している 私が森を抜けて歩けば、鳥は歌うのをやめてしまう。私のことを話しているんだ。きっとそうだ。あまりに恐ろしくて私の前では話せないんだ。 ボート モート コート フロート ゴート ノート ロート 秘密の名前秘密の名前秘密の名前 私が見ていないと彼は私に触れてくる 時々私は人が日常のことを話しているのを耳にする。彼らは家族、天気、昨日のこと、明日のことを話す。なんていい日だったんだ、君はどうだった、いい日でありますようにと彼らは言う。私は話せ話せ話せ話せと言う。それを皆に話をしてどうやって楽しめるのか? 時間は自分だけのものだ。ドラゴンはそれを少しずつ包んで私たちからすべて隠してしまう。時間を節約しよう。時間を節約しよう。私は自分のものを厳重に施錠しておく。誰もその場所を見つけられないように。彼でさえも。 さあ私を抱いて 私をやさしく揺らして 私の涙が枯れてしまいそうだ、いとしい人 縁起悪いことはやめて 縁起悪いことはやめて 息をとめて、さあ大きな息をして 息切れが続く そして私たちは死ぬ 彼はずっと話しているが、その言葉は無用だ。話そう、話そう。さあ話そう。何もしない。いつも話している。言葉は無意味になってしまう。言葉が宙に浮いている。放出された気体のように消えていく。彼が話すのをやめさせよう。私のために話すのをやめさせよう。 いつも女性を相手にする時は気を付ける。彼女たちは私たちが見ないものを見ている。微笑んで。ちらっと見て。私たちには無意味だが、彼女たちには意味がある。彼女たちは私たちに合わせて微笑みを歪める。同様に目をそらす。よく彼女たちを見よう。彼女たちが世界を支配している; そんなことは知らないだろうが。 私は優柔不断だろうか? そうとも言えるし、違うとも言える。 彼女たちは今日私に食事を運んできた。毒が入っているのは知っているが、私はそれを食べた。彼女たちは食事に黒い粉末とエッジルートを加える。それで私が静かで、穏やかになると思っている。よく知っている。時々私はパンをかじって部屋の隅に吐き出す。誰も気づかないが、しばらくするとネズミがそれを食べる。それで奴らは静かで、穏やかになる。私がそのネズミを食べると、毒はもっと薄くなる。そして私は奴らの記憶を手に入れる。 私がそんな愚か者を相手にさせられているのが正しいとは思っていない。そうでなければ鈍い奴だ。そうでなければ学者ぶった奴だ。しかし彼女たちは私に指示をくれる。ここへ行け、それをしろ、これを食べろ、それを殺せといったように。彼女たちは私が名前を知っていることを知らない。結局は私が彼女たちのところへ行って、規則を作るのだ。 あなたは様子を見ているだけ 良き神は現れては消えていく、だけど すべての君主は最後には倒れる 神は人間を起こすことができる 過ちから学んでいれば、最後には過ちをしなくなるだろうか? 自己と完全に調和した均衡を得られるか? これ以上過ちのない場所を探し求めるのか? すべての教えを学んだのか? 過ちが起きると、私たちは死ぬのか? 私たちは神になるのか? 神は私たちを必要としているのか? おそらくすべての犬は慎重に外に行くだろう。おそらく決定は非常に慎重にされるだろう。夢をみると過度に発狂してしまうだろうか? 彼は知っている。彼は知っている。彼は知っている。 物語は子供や夢見る者のためにある。詩は弱者や狂人のためにある。叙事詩は卑しき者を輝かせ、輝かしき者を卑しめる。言葉ではなく、心を読むのだ。 もう行く時間だろう。まだ彼のことを考えているけれど、私が静かになればいなくなるだろう。しーっ。しーっ。 SI 茶2 詩歌
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[本書内の記述はどうやら手早く転記されたもののようで、元は口述によるものか、より長大な著作からの引用かと思われる。] 狩りへの出立 何びとにも、狩りが宣言されず、儀式が宣言されず、太古の務めがまっとうされていないなどと証言されることなかれ。 野生の狩りとしても知られる無垢な獲物の儀式は、この世を取り巻く強大なマジカの流れから魔力を引き出すための古代の儀式である。儀式が由来する時代やその考案者は遥か昔に忘れ去られてしまっているが、所定通りに行なうことで狩人に強大な力と名声を与えうるものである。 儀式においては万能なる狩人たちとその大犬、子犬たちが、人間たちの狩りにちなんで伝統的に「兎」とも呼ばれる、哀れなる呪われた無垢なる獲物と対決することになる。狩人は無力な獲物に対する自らの圧倒的な優位性と支配に極上の興奮と栄誉を味わうと同時に、無垢なる獲物の悲劇的ながら誇り高く、しかし最終的には無駄となるあがきを痛感するのである。儀式の最も理想的な完成形とは、獲物を殺す際の最上の悦と、無垢なる獲物の悲しみと絶望に対する狩人の共感との均衡がとれていることである。無垢なる兎の肉体が八つ裂きにされる傍らで、狩人は悲劇的なまでの力の不均衡と、残酷なまでのこの世の不当ぶりを一考するのである。 狩りが始まる際には、子犬たちは無垢なる獲物の聖堂の緑水晶の鏡像の前に集まる。聖堂内では狩人たち、大犬たち、そして狩りの長が儀式を行い、狩人と狩りと無垢なる獲物を受け入れ、神聖化する。その後狩人が聖堂から出てきて、厳しき無慈悲の槍をかかげ、狩りの務めを唱える。狩りの務めは、いぶり出し、追跡、呼びかけ、そして殺しという狩りの四つの段階の決まりと条件を説明している。 一つめの段階であるいぶり出しでは、子犬たちが兎を追い立てるために地面をしらみ潰しにする。 二つめの段階である追跡では、大犬たちが兎を追い立てて走る。 三つめの段階である呼びかけでは、大犬たちが兎を追いつめ、殺しのために狩人を呼び寄せる。 四つ目の段階である殺しでは、狩人が儀式用の厳しき無慈悲の槍を使って獲物を殺し、殺しを目にしてもらうために町の鐘を鳴らして狩りの長を呼び寄せる。その後、狩りの長が殺しの際に厳しき無慈悲の槍を扱った勇敢なる狩人に褒美を与え、また、次の狩りのための兎を指名するよう勇敢なる狩人に求める(勇敢なる狩人自身は次の狩りには参加できない)。 狩人、狩りの長、および犬たちが厳粛に尊重すると誓った狩りの務めは、狩りの習わしと条件を詳しく決めている。狩りの法とも呼ばれるこれらの事項は、例えば各種の犬が何匹まで参加できるか、厳しき無慈悲の槍をどのように扱うべきかなど、狩りのあらゆる側面を事細かに指定している。加えて狩りの法には、例えどれだけ僅かであっても、兎には狩りから逃れられる可能性が残される必要があるとの条項がある。具体的には、獲物には六つの鍵が用意され、これらを全て集めてデイドラの儀式の神殿に行くことで、兎は転移により狩りから逃れ、槍をもつ狩人を煙に巻くことができる。兎が実際に鍵を全て集めて逃げ延びるのは現実的には有り得ないことだが、形式は守らなければならず、鍵に細工を施したり、兎が鍵を見つけたり使ったりする可能性を潰すような行いは、狩りの法に対する恥ずべきかつ許されざる裏切りであると見なされる。 狩りの儀式は狩人に、通常および不死身の者の武器、および全ての系統の魔術を含む、あらゆる攻撃からの加護を与える。狩人たちは、自分たちがもつ槍の威力から自身を守る効果が儀式には無いため、格闘戦や暗闇などの危険な状況で不用意に槍を使わないように警告される。厳しき無慈悲の槍に触れただけで、無垢なる兎も、仲間の狩人も確実に即死してしまうからである。 高位のデイドラの王以外は厳しき無慈悲の槍の強大な魔力に傷つけられうるため、野性の狩りの獲物を使命できる権利は偉大かつ重大な権利である。よって槍そのものは凶悪な武器であり、狩りの儀式の場から持ち出すことは禁じられている。 民族・風習・言語 茶1
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ジーロットについて シェオゴラスのジーロット 自称「シェオゴラスの狂信者」たちは、我らの君主が単なる驚くべき不思議な力の持ち主ではなく、生ける神だと信じている。そしてその意志によって大地は保たれ、そこにあるすべてが彼の気まぐれによって支えられていると信じているのだ。我らの内奥の風を読む者、アルデン=スルは、シェオゴラス閣下が定命の形で現れたものであり、世界を清めるために再び現れるだろうと彼らは信じている。その主張は明らかに馬鹿げているため、すべての狂信者たちはかなり狂っているものと思われる。 狂信者たちに道理を説くことはできない。彼らを容易に扱ってはいけない。彼らは目につけばほとんど誰でも異端者あるいは異教者と見て、攻撃してくる。彼らは大虐殺を大いに楽しみ、相手が死ぬまで戦う。 読者は疑問に思うかもしれない。どうやって人は狂信者に加わるのかと。研究を重ねた結果、狂信者たちが居住地域へと忍び込み、ローブを置いていくことを私は突き止めた。狂信に心が傾いている者は誰でも、そのローブを身にまとうことにより、安全に狂信者たちに近づくことができる。たとえローブを身につけていても、狂信者の首領はその嘆願者の本当の心を見透かすことができると言われている。そして、偽りの嘆願者は殺されてしまうのだ。 さらになお、狂信者たちにはシェオゴラスへの忠誠を証明するための痛々しい儀式がある。そして最も熱心な嘆願者のみが、彼らと同じ身分になることを許されるのだ。その試練を通過できない者には、死が待ち受けている。 嘆願者がいったん狂信者として認められると、儀式や魔法の秘密を教え込まれる。最も良く知られているのは、彼らの命令に従う肉体の精霊の召喚だ。連中は強力な生物であり、恐るべき敵となる。 SI デイドラの神像関連 神話・宗教 緑2
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武具の手引き この小冊子は戦地におもむく帝都の将校を対象とした、ウォーハフト将軍の監修による武器についての解説書である。 当然のことながら、兵士の武器はそのスキルに応じたものが望ましい。刀剣のスキルにはダガー、ショートソード、ロングソード、クレイモアが向いている。殴打のスキルなら片手斧、メイス、両手斧、戦槌が適しているだろう。新兵にとって斧や槌は扱いの難しい武器だと思われがちだが、振りかざすリズムや扱い方、力の入れ方などはどちらもまったく変わらない。弓は射手のスキルを持つ兵のみが装備すべきであろう。 こうした武器のほとんどは盾と併用するのが一般的であるが、クレイモア、両手斧、戦槌は両手で扱うため盾は装備できない。重装の騎士やバーサーカーといった部隊の両脇をかためる兵士たちは両手武器を装備するのが望ましい。 いつの時代であっても、武器は多彩な素材から作られてきた。しかも、それらの素材は重さも強度も値段もそれぞれ異なっている。こうした素材を強度と値段の低い順に羅列すると、鉄、鋼鉄、銀、ドワーフ、エルフ、碧水晶、黒檀、デイドラとなる。厳密に言えば、銀製武器は強度の点でやや鋼鉄に劣るという意見の鍛冶屋もいるようだが、たとえそうであっても、亡霊やレイスや特定のデイドラ系モンスターに対して銀がとりわけ有効であることは疑いようがない。 弓は同種の芯材を薄く重ねて作られる。こうすることで張力が増し、弓を引いたときに大きな力が生まれるのである。矢、特に矢じりは使われる素材によってサイズや貫通力が大きく変わってくるため、武器全体の防具貫通力を決めるのは弓の質と矢の質両方だということになる。 すべての神話や歌で魔力の武器についての言及がなされている。こうした道具の魔力は敵を攻撃したときに発揮され、ターゲットに痛みや苦しみを与えるのである。弓にかけられた魔法は射出時に矢に伝達されるが、あらかじめ矢に魔力が宿っているときはどちらの効力もターゲットに対して発揮される。 魔力がこもった武器に宿っているマジカには限りがある。攻撃するたびにマジカが減っていき、やがて底をついてしまう。魂石という神秘のアイテムを使うことで魔力は回復する。この石に封じられた魂が強力であればあるほど、マジカの回復量も増大する。 兵法・戦術 茶2
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赤の台所読本 シモクリス・クオ 著 私は生まれつき控えめではあるが、我らが皇帝の父、今は亡きペラギウス四世から「タムリエル最高の食通」との言葉を賜ったときは、嬉しかったと言わざるを得ない。彼は親切にも、私を最初で、そして今でも唯一の帝都宮廷内における料理の達人として任命してくださった。他の皇帝たちも、当然料理長や料理人を抱えてはいたが、高度な味覚を持った人物が献立を作ったり、宮廷で出される極上の野菜や果物を選りすぐったりしたのは、ペラギウスの統治中だけである。彼の息子ユリエルも私にその職を続けるよう要請してきたが、病気がちで高齢でもあったため、丁重にお招きをお断りするしかなかったのである。 しかし、この本は自叙伝であることを意図してはいない。私は高級料理人の騎士として数多くの冒険をしてきたが、この本の狙いはもっと具体的である。私は、「今までに食べた最高の料理は何?」と何度も聞かれたことがある。 その問いへの答えは簡単ではない。素晴らしい食事の喜びは、食べ物だけではない── 周囲の環境や同席者や気分によるのである。淡々と作られた丸焼き、または簡単なシチューを本当に愛している人と一緒に食べれば、それは心に残る食事である。素晴らしいフルコースのご馳走を、少々気分が悪いときにつまらない同席者と一緒に食べたなら、すぐに忘れるか嫌悪とともに記憶に残るであろう。 食事はその前に得た経験から記憶に残ることもある。 つい最近、北スカイリムでちょっとした運の悪い出来事があった。私は漁師の集団に同行して、とても貴重で美味しいメリンガーという魚の漁獲方法を観察していた。その魚は遠海でしか見られないので、人里を一週間離れる船旅であった。メリンガーの魚群を見つけたが、漁師がそれをモリで突き始めた瞬間、水中の血がドゥルーの群れを呼び寄せてしまい、船は転覆させられてしまった。私は助かったが、漁師たちとすべての必需品を失ってしまった。悲しいかな、航海術は身に着けていなかったため、ソリチュード王国へ戻るのに3週間、食料もなしで耐えなければならなかった。なんとか生で食べるための小魚を獲ることはできたが、空腹と渇きから意識が混濁していた。陸で最初に食べた食事はノルド風イノシシの丸焼き、ジャズベイワイン、そして、そう、メリンガーの切り身である。これらはどのような状況であろうとも素晴らしかったであろうが、直面していた餓死の脅威から、言葉では言い表せないほど尊く感じた。 さらに、食事はその後に得た経験から記憶に残ることすらある。 ファリネスティの酒場で、美味しい小さな肉の塊が、薬味や汁と一緒に混ぜ合わさっている、コロッピと言う名の簡単な庶民料理に出会い、そのあまりの美味しさから店の女主人に、どこに由来するのかを尋ねた。コロッピに使われるのは、オークの木の一番柔らかい枝だけを餌にしている樹上性のげっ歯類の肉であるとパスコスト女主人が説明してくれ、そして一年の収穫時にヴァレンウッドに居るのは幸運であるとも言った。私は、唯一このみずみずしい小さなネズミたちを捕らえられる、イムガ猿の小さな集落に招待された。コロッピは木の一番細い枝、そしてその枝の最先端に棲むため、イムガたちはコロッピの下から登り、飛び上がってこれらを「摘み」採らなければならなかった。イムガは当然生まれつき器用だが、私は当時若く活発であったので、彼らは私に手伝わせてくれた。彼らのように高くは飛べなかったが、練習し、頭と上半身を硬直させ、足をハサミのように曲げて飛び上がれば、一番低いところにいるコロッピに届くことを発見した。かなり苦労はしたが、自力でコロッピを3匹収穫したと記憶している。 今でもコロッピのことを考えるとよだれが出てくるが、心は私と数十匹のイムガがオークの木の下で飛び回っている姿を想っている。 そしてもちろん、食事の前、後、途中に得た経験から記憶に残る稀な食事もある。そしてそれは、私が今までに食べた最高の料理であり、生涯にわたる、素晴らしき料理への執着を始めさせた料理でもある。 シェイディンハルで暮らしていた子供の頃の私は、食事に対してまったく無関心であった。完全に頭が鈍い訳ではなかったので、栄養の価値は認識していたが、食事の時間が楽しみをもたらしたとは言いがたい。理由の一部は、香辛料はデイドラの発明であり、善良な帝都人は味のない、パサパサしていて、煮てある食べ物を食すべきと信じていた家族の料理人にあった。この考えに宗教的な重要性をあてはめていたのは彼女だろうと思うが、シロディールの伝統的な食事を試食した結果、残念ながらこの考えは我が母国では共通しているらしい。 食べ物自体を楽しむことがなかったが、その他のことに関しては、気難しく冒険心のない子供であった訳ではない。当然、闘技場での戦いは楽しかったし、想像力だけを友に、街の通りをぶらつくことは、私を何よりも喜ばせた。私の心と人生を変えた発見をするのは、そんなように街へ出かけた、真央の月の日が照る金曜であった。 私の家から少々離れたところに、何軒かの廃屋があった。私はそこが、無法者がいっぱいいる、または何百もの霊によってとりつかれているなどと想像しながら、しばしばその周りで遊んだ。中に入る度胸はなかった。実際のところ、過去に私をからかって楽しんだ子供たちを見かけなかったら、中に入ることはなかったであろう。しかし、そのときは逃げ込める場所が必要だったので、一番近い廃屋に飛び込んだ。 家は外と同じように中も荒れていた。そこには誰も住んでいない、それもかなりの期間であることを示す証拠だった。足音を聞いたとき、私には避けようとしていた嫌ないたずらっ子が私についてきたとしか思えなかった。地下室へ逃れ、そこから、崩れた壁を越えて井戸へと出た。まだ上から足音が聞こえたが、いじめっ子と対峙する気はなかった。井戸に掛かっていた錆びた錠を壊し、下へと滑っていった。 井戸は干乾びていたが、空っぽからは程遠いことを発見した。家には地下2階らしき場所があり、そこには大きな部屋が3部屋あり、清潔で家具もあり、明らかに放棄されてはいなかった。誰かがこの家に住んでいると、直感が教えてくれた── 視覚だけではなく、嗅覚も。部屋の1つは大きな赤く塗られた台所であり、炉の上に広げられた石炭の上には一口大に切り分けられた丸焼きがあった。母親が丸焼きを、うれしそうにしている子供たちのために切り分けている、美しくて相応しい浅浮き彫りの飾りを通りすぎ、私はその台所とその中の不思議なことに驚嘆した。 延べたように、食べ物が私に興味を抱かせたことはないが、そのとき私は立ちすくんだ、そして、これを書きながら今でも、あの部屋中を漂っていた芳醇な香りを表現する言葉がない。今までに私の台所では嗅いだことがない匂いであった、そして私は、湯気を立てている塊を口に運ぶ自分を、止めることができなかった。その味は幻想的であり、肉は柔らかく甘い。知らぬ間に、私は炉の上にあったものをすべて食べてしまっていた。そしてその瞬間、食べ物は崇高なものにもなれる、そしてなるべきと真実を悟った。 すべてを胃袋に収め、味覚の大覚醒を遂げた私は、どうしたら良いか悩んだ。私の一部は、料理人に美味な肉のレシピを聞くため、あの赤い台所で彼が戻るのを待ちたがった。もう一部は、自分が他人の家に押し入って、夕飯を食べてしまったことを認識しており、逃げられる間に逃げるほうが賢明であると思っていた。私はそちらに従った。 何度もあの奇妙で素晴らしい場所へ戻ろうと試みたが、シェイディンハルは時間とともに様変わりした。古い家は再生され、新しい家が放棄される。私は、家の中で何を目印にすればよいかを知っている── 井戸、子供のために丸焼きを切る女性の美しい銅版画、赤い台所── しかし、再度あの家を見つけ出すことはできなかった。しばらくたち、齢をとるにつれ、探すのをやめた。今までに食べた最高の料理は、記憶の中に残っているだけのほうがいいのであろう。 その後の私の人生へのひらめきはすべて、あの素晴らしい肉と一緒に作り上げられたのである。あの赤い台所で。 茶2 随筆・ルポルタージュ
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聖なる目撃者:夜母の真実の歴史 エンリック・ミルネス 著 私は今まで、公爵夫人や高級娼婦、魔女、戦火の中を生き抜く淑女や平和を謳歌する遊女、そのような女たちをたくさん見てきた。しかし、夜母のような女性には会ったことがなかったし、これからもないだろう。 私は作家であり、無名な詩人である。おそらく、私の名前を聞いたことがあるという読者はほんの一握りだろう。最近までの数十年間、私はハンマーフェルの海沿いにあるセンチネルという町に住み、その地の芸術家や画家、織物職人、作家などと交流を持っていた。彼らのうち誰もが、あの暗殺者の顔を知らなかっただろう。彼らの最後の女王、血の花、死の淑女、夜母のことを。 しかし、私自身は彼女のことを知っていた。 数年前、私は高名な学者のペラーヌ・アッシと知り合う機会を得た。彼はちょうど、ダイアグナ団に関する著作の取材のためにハンマーフェルを訪れていたのである。彼の小論『闇の兄弟たち』、およびイニル・ゴーミングによる『炎と闇:死の同胞たち』は、タムリエルの暗殺集団を論じる上で欠かせない資料であるといわれている。幸運にも、ゴーミングもまた同時期にセンチネルを訪れており、私は彼ら二人とともにスラム街のスクゥーマ窟に座り、闇の一党やモラグ団、夜母などについて語り合うという素晴らしい経験をしたのだった。 アッシは、夜母が一人の不死もしくは長命の人物を指す呼び名である可能性も否定はできないとした上で、夜母というものが何人もの女性たち ──時には男性もいたかもしれない── に代々受け継がれる称号のようなものであると考えていた。夜母が一人の人物であると考えることは、一人のセンチネル国王がずっと国を治め続けていると考えるのと同じくらい非論理的であるというのが彼の主張だった。 ゴーミングは、夜母の存在自体を疑っており、少なくとも夜母という人間は実在しないと主張していた。夜母とは闇の一党がシシスの次に崇拝しているメファーラの別名であるというのが彼の考えだった。 「実際のところは、確かめる方法はないのでしょうね」と、私は議論を仲裁しようとして言った。 「いや、方法はあります」と、ゴーミングがにやりと笑い、小声で言った。「あの隅にいる、マントの男に聞けばいいんですよ」 私はそんな男がそこにいることを気付いていなかった。その男はフードを目のあたりまでかぶり、汚く粗雑な石の床に一人で座っていた。私はイニールのほうに向き直り、なぜあの男が夜母について知っているのかとたずねた。 「彼は闇の一党の一員ですよ」と、ペラーヌ・アッシが囁いた。「それは火を見るよりも明らかです。彼に夜母のことを聞こうだなんて夢にも思ってはいけませんよ」 話題はモラグ団についての議論に移っていったが、私の頭の中には一人で座っているあの男の姿が焼きついていた。汚い床の隅に座り、スクゥーマの煙を亡霊のように体にまとって、その目はどこも見ていないようでもあり、すべてが見えているようでもあった。それから数週間後、私はセンチネルの街角で彼を見かけ、後をつけた。 そう、彼の後をつけたのである。読者は当然、「なぜ」や「どうやって」という疑問を抱かれることだろう。 「どうやって」という疑問にお答えするには、私がどれほどよくこの町を知っているかを説明せねばならない。私は泥棒ではないし、音を立てずに歩くこともできないが、その代わり何十年もの間センチネルの大通りや路地を歩きまわり、知り尽くしていたのである。どの橋がきしんで音を立てるのか、どの建物が不規則に長い影を地面に落とすのか、町に住む鳥たちがいつ日暮れの歌を歌いだし、やめてはまた歌いだすのか、全てが頭に入っていたのである。私はそれほど苦労することなく、闇の一党の男に気付かれずに彼を尾行することができた。 「なぜ」という疑問への答えはもっと簡単である。私は生まれついての作家であり、好奇心にあふれていた。奇妙な生き物を見かけたら、観察ぜずにはいられない、それが作家の性というものである。 私はマントの男の後を追い、町の裏側へと入っていった。通る道はどんどん狭くなり、住宅と住宅の間の隙間や破れた柵を抜けた。そして、突然、私は思いがけなく見覚えのある場所に出た。 それは建物に囲まれた小さな墓場で、十数本の腐りかけた木の墓標が立っていた。まわりの建物にはこちら向きの窓がなく、住人ですら誰もこんなところに小さな死者の村があるとは知らないだろう。 誰も知らないはずのその場所に、6人の男と1人の女が立っていた。それに私も。 そのとき、女が私の方を見、手振りで自分たちのほうへ来るように誘った。私は逃げようとしたが── いや、実のところ、逃げようとはしなかった。私のよく知るセンチネルの町に謎の部分があると知りながら、そのままそこを離れることなどできなかったのである。 彼女は私を知っており、優しく笑いかけながら私の名前を呼んだ。夜母は、小さな老婆であった。柔らかい白髪で、しわはあるがまだ若さの残るりんごのような頬を持ち、イリアック湾のように青い瞳は人懐っこく輝いていた。彼女は優しく私の腕を取り、墓場の中心で殺人について話し合っている人々の輪の中に座らせた。 彼女はいつもハンマーフェルにいるわけではなく、全ての暗殺を彼女自身で行うわけでもないらしかったが、彼女の顧客と直接話すことが好きなのだと言った。 「私は、闇の一党に暗殺を依頼しに来たのではないのです」と、私は丁重に申し出た。 「じゃあ、どうしてここへ?」と、夜母は、私の目を見据えたままでたずねた。 私は、彼女について知りたいのだと言った。答えは期待していなかったが、彼女は話してくれたのである。 「あなたたち作家は、私について想像をたくましくしていろいろ書くけれど……」彼女はくすくす笑った。「そういう話を読むのは嫌いじゃないわ。面白かったり、宣伝になったりしますからね。カルロヴァック・タウンウェイの小説の中じゃ、私は長いすに横たわる妖艶な美女なのよ。でも本当のところは、私の経歴なんて面白い物語にはならないわ。ずっと、ずっと昔、私は盗賊だったの。盗賊ギルドができたばかりの頃の話よ。私たち泥棒にとって、家に忍び込んで、見つからないようにこっそりと動き回るのはとても大変で、住人を絞め殺すのが一番いい方法だったの。一番手っ取り早かったから。私は盗賊ギルドの中に、殺人の方法と技術を専門とする部門を作ろうと提案したの」 「その提案があんなに議論を呼ぶとは思わなかったわ」夜母は肩をすくめた。「ギルドの中にはこそ泥の専門家もいたし、スリや錠前破りから、見つかったときの言い逃れまで、盗賊の仕事に必要な全ての分野の専門家がいたのよ。でも、盗賊ギルドは、殺人を推奨することだけは盗賊業のためにならないと思っていたの。やりすぎだ、って言うのよ」 「彼らのほうが正しかったのかもしれないわ」と、老婆は続けた。「でも、殺人にはもっとたくさんの利点があったのよ。つまり、見つかることを心配せずに物を盗めるだけじゃなく、もしその殺した相手に敵がいたら、その敵から報酬までもらえるっていう利点がね。大金持ちには大抵、敵がいるものでしょう。それに気付いて、私は殺しのやり方を変えたわ。相手を絞め殺した後、死体の目の中に石を入れることにしたの、片目に黒い石、もう片方に白い石」 「なんのために?」と、私はたずねた。 「名刺がわりですよ。あなたは作家でしょう── 自分の本の表紙には、名前を載せるでしょう? 私は名前を知らせるわけにはいかなかったけど、私と私の仕事のことを、殺人を依頼したいと思ってる人たちに知ってほしかったの。今はそんな必要もなくなったからもうやってないけれど、その頃はそれが私のサインみたいなものだったの。すぐに噂が広まって、私の商売は大繁盛したわ」 「それがモラグ団の始まりですか?」と、私はたずねた。 「あらまあ、いいえ、違いますよ」夜母はほほえんだ。「モラグ団は、私が生まれるずっと前からあったんです。私はおばあちゃんだけど、そんなに長く生きてはいないのよ。私はただ、最後の君主の暗殺のあと解散しかけていた彼らのうち、何人かを雇っただけ。彼らはもう団を抜けたいと思っていたし、そのころ他の暗殺組織といったら私のところしかなかったので、彼らは私の仲間になったの」 私は、慎重に次の質問を口にした。「全てを話してくださったということは、私を殺すつもりなんですね?」 彼女は悲しげにうなずき、おばあちゃんのようなため息をもらした。「あなたみたいな人の良い、礼儀正しい若い人と知り合ったばかりで、もうさよならしなくちゃいけないのはつらいわ。もし、ひとつかふたつの条件を守れば殺さないでおいてあげると言ったら、どうしますか?」 私は、あの時出された条件をのんだことを生涯恥じ続けるだろう。私はそこで彼女と会ったことを誰にも言わないと約束した。しかし、数年たった今、これを書くことでその約束を破っている。このことで、私は自分の命を危険にさらすことになるだろう。何のために? 私が隠してきた秘密を書き残すためである。 私は夜母と闇の一党の、ここには書けないほど恐ろしく忌まわしい仕事を手伝ったのだ。あの夜から、私が彼らに売り渡してきた人々のことを思い出すたび、私の手は震える。私は詩人としての創作を続けようとしたが、まるでインクが血に変わってしまったような心持ちがして無理だった。私は逃げ出し、名前を変えて、誰も私のことを知らない土地へ移り住んだ。 そして今、私はこれを書いている。直接夜母と会って本人から聞いた、彼女の真の経歴である。これが私の最後の作品になることは間違いない。ここに書いたことは、全てが真実である。 私の無事を祈ってほしい。 編集者注:この文章は当初、匿名で発表されたにもかかわらず、多くの読者は作者の正体を見抜いている。エンリック・ミルネスの詩を読んだことがある者ならば、専門家でなくとも『聖なる目撃者』の文体や言葉のリズムが『アリクール』など彼の作品のそれと酷似していることに気付くだろう。この文章を発表した直後、ミルネスは何者かによって殺害され、犯人は未だに見つかっていない。ミルネスは絞め殺され、眼窩に白と黒の石を押し込まれた無残な姿で発見されたという。 茶2 闇の一党関連 随筆・ルポルタージュ